自動車のEV化で業界が激変 ホンダが買収のターゲットになる … – livedoor



日産自動車のカルロス・ゴーン社長が退任し、会長職に専念する。日産が三菱自動車を買収したことで、ルノー・日産グループは上場3社という大所帯になった。1人で3社のCEOを兼務するのは物理的に難しく、ゴーン氏が今後、グループ全体のマネジメントにシフトしていくのは自然な流れだろう。

 ただ、このタイミングであえて会長職への専念を決断したことについては、業界再編に備えた動きとの見方がもっぱらである。

 自動車業界は、産業構造の抜本的な転換時期を迎えており、その兆候は各社の決算にも表れ始めている。近い将来、大規模な業界再編が起こる可能性はかなり高くなってきたと見てよいだろう。

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3社のCEO兼務はさすがに厳しい

 日産自動車は、4月1日付けでカルロス・ゴーン会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)が社長とCEOを退任し、後任に西川広人共同CEOが就任する人事を発表した。ゴーン氏は、仏ルノーのCEOは続けるものの、今後はグループ全体のマネジメントに注力していく。

 日産は業績不振から1993年にルノーの資本参加を仰ぎ、当時ルノーの副社長だったゴーン氏がCOO(最高執行責任者)として送り込まれた。その後、2000年に社長に、翌2001年にはCEOに就任。さらに2005年にはルノーのCEOも兼務することになり、以後、ルノー・日産グループの経営を一手に担ってきた。

 ゴーン氏がルノーと日産のCEOを兼務していることについて、ガバナンス上の問題を指摘する声がなかったわけではない。だが、両社の相互補完的な関係やゴーン氏が持つ強いリーダーシップに対する期待から、市場はある程度、こうした状況について許容してきた。だが昨年10月に日産が三菱自動車に資本参加し、ゴーン氏が同社の会長に就任したことで状況が変わってきた。

 個別に株式市場に上場している3つの会社のトップを兼務するということになると、各社のオペレーションにおいて利益相反を起こす確率は高まってくる。理屈上、ゴーン氏のちょっとしたさじ加減で、3社間の利益をいかようにも付け替えることができる。

 上場3社のトップを兼務することはルール上、禁止されているわけではないが、市場関係者の一部からは、ガバナンスの問題を指摘する声が出始めた。ゴーン氏の会長昇格には、こうした懸念を払拭する狙いがあると考えられる。

自動車産業はいよいよコモディティ化へ

 だが、ゴーン氏がこのタイミングで社長退任を決定したのはそれだけが理由ではない。やがて訪れる自動車業界の再編に向けた備えとの見方がもっぱらである。

 自動車業界は100年に一度とも言われる変革の時期を迎えている。これまで自動車業界は、現代産業の中核として極めて大きな付加価値を世界にもたらしてきた。しかし、自動運転システムやEV(電気自動車)、シェアリングエコノミーといったイノベーションが次々と押し寄せており、従来の産業構造を維持することが難しくなってきている。

 これは電機業界など他の業界では、見慣れた光景だが、自動車産業だけはこうした変化とは無縁であった。だが、今回ばかりは、新しいテクノロジーの荒波から逃れることは難しそうだ。

 こうした状況を受けて日産は昨年、極めて大きな決断を行っている。それは傘下の部品メーカーであるカルソニックカンセイを売却したことである。カルソニックカンセイは、コンプレッサーや排気システムから電装系まで揃える総合部品メーカーであり、日産にとってはまさに中核となるグループ企業といってよい。

 高い技術を持つ部品メーカーは自動車メーカーにとって重要な資産であり、各社はこうした部品メーカーをグループ内に積極的に囲い込んできた。特に業績が悪化したわけではないにもかかわらず、こうした資産を売却する背景には、EV化を見据えた長期的な判断があると考えられる。

 EVは内燃機関と異なり、技術的な難易度が低く、多業種からでも容易に参入することができる。EVが主流となれば自動車の価格は大きく低下する可能性が高い。自動車産業が長年かけて作り上げてきた垂直統合モデルと、そのバリューチェーンが解体されてしまう恐れがあるのだ。つまり自動車産業のコモディティ化である。

 現時点では、EVが自動車産業における次世代の主流技術となるのかは分からない。だが、コモディティ化の波はすでに自動車業界に押し寄せており、各社の決算にはすでにその兆候が見え始めている。

シェアがないと付加価値を維持できない

 一般的に企業の業績を見る場合には、営業利益や純利益などに注目することが多いが、その企業が、どのくらい付加価値を生み出しているのか知るためには、売上高から原価を差し引いた「売上総利益(粗利)」を見るのがよい。この割合がどう変化しているのかが分かれば、その企業のビジネスモデルの変化についてうかがい知ることができる。

 主要自動車メーカーにおける過去4年の売上高総利益率の推移を見ると面白いことが分かる。業績が絶好超だったトヨタは売上総利益率が38%も増加し、日産も約18%の増加となっているが、相対的に業績が今ひとつだったホンダは13%も減少している。

 自動車メーカーの付加価値の推移は販売台数と密接に関係している。1000万台近い販売台数を持つトヨタやGMの増加率は高く、その一方で、マツダなど160万台程度の販売台数しかない小規模メーカーも比較的順調である。それに対して最も増加率が小さいのが、ホンダやフォードといった準トップクラスのメーカーということになる。

 日産はホンダと比較すると利益率は高いが、販売台数は540万台とトヨタやGMをに大きく水をあけられている。このまま規模のメリットを追求できない場合、ホンダのような状況に陥る可能性は高い。

 ゴーン氏が三菱自動車を買収したのは、同社が持つ電気自動車の技術が魅力的だったという部分が大きいが、それ以外にも、今後は1000万台規模のメーカーでなければ生き残れないというシビアな見立てがあることは間違いない。

 だが、規模を追うことができているトヨタが盤石なのかというとそうはいかない。コモディティ化による付加価値の低下はトヨタにも忍び寄っている。トヨタはこのところ北米市場の販売が思うように伸びておらず、2017年3月期は減収減益の決算を見込んでいる。同社の売上高総利益率は、昨年度の決算と比較して推定で13%ほど減少する可能性が高い。

ホンダが買収のターゲットに?

 トヨタは日産と異なり、グループ内にアイシン精機、曙ブレーキ工業、デンソーなど技術力の高い部品メーカーを多数抱えている。デンソーのようにトヨタグループとしては独立性の高い企業もあるが、それでも日産と比較するとトヨタは垂直統合モデルとしての色彩が非常に濃い。

 この厚い技術基盤がトヨタの競争力の源泉であったことは間違いないが、今後、EVという「軽い」技術が普及した場合、これがトヨタの足かせになる可能性が十分にある。逆にいえば、日産としては、産業構造が転換するかもしれない今のタイミングこそが、トヨタに追い付く最後のチャンスともいえる。

 このような視点で自動車業界を眺めて見ると、再編劇の主役となりそうなのがホンダである。日産はゴーン氏の決断により、良くも悪くも勝負に出ている。一方、スズキのような弱小メーカーは大手との提携で生き残りを図るしか道はなく、選択肢は限られている。

 スズキがトヨタと提携したのは自然な流れであり、両者はいずれ資本関係を持ち、最終的にスズキはトヨタグループの一員となるだろう。一方、どの場所にも属していないのがホンダであり、ホンダは今後、資本提携のターゲットになる可能性が十分にある

 もっとも、ホンダに秋波を送るのは完成車メーカーとは限らない。グローバルに見た場合、独ボッシュなど大手部品メーカーが完成車市場に乗り出してくる可能性や、インテルのようなIT企業の動きも見逃せない。インテルは今年3月、高度な自動運転技術を持つイスラエルのモービルアイ社買収を発表するなど自動運転時代に向けて着々と布石を打っている。

 10年後には自動車産業におけるプレイヤーの顔ぶれは大きく変わっているかもしれない。

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筆者:加谷 珪一


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