訪問看護、きたれ新卒 日勤の多さ魅力、育成には課題|ヘルスUP … – 日本経済新聞



 訪問看護の現場で、新卒の看護師を採用する動きが出てきた。需要が高まるなか人手不足を補うのが狙いで、新卒の若手にとっては夜勤が少ない働き方などが魅力になる。従来は臨床経験を積んだベテランが担ってきた分野。看護の質を維持しながら人手を増やしていくには、現場と教育機関などが連携して育成する体制づくりが求められる。

 「体調はいかがですか」。9月上旬、新卒訪問看護師の黒堀真由さん(23)が東京都渋谷区の井上邦郎さん(78)の自宅を訪れた。在宅ケアの記録ノートに目を通した後、たんの吸引や手足のリハビリテーションを手際よく進める。

 邦郎さんを介護する妻の泉さん(77)は「機械の使い方も教えてくれるからすごく助かる」と笑顔で話す。24時間体制の訪問看護を利用する前は、医療機器のブザーが鳴って1人で慌てることもよくあった。担当する看護師が新卒であっても「何回か来たらもうベテランのようにやってくれるから安心。若い人が来てくれて新鮮」と歓迎する。

じっくり寄り添う

 黒堀さんが訪問看護師の道を選んだのは「一人ひとりと向き合う看護がしたかったから」。時間に追われる病院と異なり、自宅で療養する人の生活にじっくり寄り添う仕事に憧れた。

 訪問看護師は1日に数軒の利用者宅を訪問する。1軒の訪問時間は1時間程度。医師の指示書を基に、主に病状の観察や点滴の投与、人工呼吸器などの医療機器の管理をする。

 利用者に合わせて幅広い処置の技術や知識が求められるため、現状では臨床経験の豊富な看護師が務めることが多い。新卒を現場へ送るからには手厚いサポートが欠かせない。

 黒堀さんが所属するケアプロ(東京・中野)は2013年から新卒訪問看護師の採用・育成を始めた。入社後は、まず先輩看護師と同行訪問しながら基礎的な技術を一つずつ学ぶ。1カ月目は週に一度、聖路加国際大学で看護技術の実習を受け、3カ月目からは段階的に単独訪問に移る。

 ただ、新卒の場合、利用者や家族からの療養上の質問に、とっさに答えられないこともある。

 ケアプロでは訪問看護師全員にスマートフォンを支給し、看護師同士が連携する体制を整える。利用者の身体状況の変化や対応について疑問があれば、同じ利用者を担当している他の看護師などに聞くことができる。急ぎの処置が必要な場合は、訪問看護ステーションに常駐する所長や副所長が駆け付ける。しっかりしたフォロー体制があり、黒堀さんは「安心感は大きい」と話す。

 新卒の訪問看護師を採用する動きは広まりつつある。セコム医療システム(東京・渋谷)は06年に新卒の募集を始め、これまでに43人を採用。今春には、ウィル訪問看護ステーション(東京・江戸川)も採用し始めた。

大学に専門コース

 訪問看護の現場に新卒が登場し始めたのは、深刻な人手不足が背景にある。厚生労働省の調査によると、訪問看護師の数は16年末時点で4万2245人。看護師全体の3.7%にとどまる。一方、在宅医療のニーズが高まり、日本看護協会の荒木暁子常任理事は「25年に向けて10万~15万人が必要」と指摘する。

 とはいえ、人手不足の解消のためにスキルの伴わない看護師が配属される事態は避けなければならない。荒木理事は「新卒を指導する側の育成も進めて訪問看護ステーションを支援していく必要がある」と語る。

 訪問看護師を手厚く育成するため、自治体と大学が連携する動きも出てきた。滋賀医科大学は16年、滋賀県から委託を受けて「訪問看護師コース」を開講。現場での学びを重視し、5週間の実習を課す。

 訪問看護師は、利用者の日常生活にきめ細かく対応し、介護士などとも連携するなど、病院の看護師とは異なる能力が求められる。同大学の多川晴美准教授は「看護教育はこれまで病院中心だったが、今後はもっと在宅を考えていく必要がある」と話す。

 現状では課題もある。セコム医療システムの国本陽子取締役は「訪問看護ステーションだけで新卒を育成するのは限界がある」と話す。小規模なところでは新卒の育成に手が回らないこともあるからだ。

 聖路加国際大学の山田雅子教授は「訪問看護ステーション・教育機関・病院・行政が横一線につながって新卒の育成に取り組むことが欠かせない」と連携を呼びかける。

中核担う役割期待

 看護を学ぶ若い世代で、新卒時から訪問看護師として働く人が増えている。働き方が魅力的に見えるからだ。病院の看護師はシフトを組み日勤と夜勤を繰り返すことが多いが、訪問看護師は平日の日勤が基本となる。

 新卒で訪問看護師になることは、その後のキャリアにも生きる。病院での入院日数が縮まるなか、患者の退院後の生活をサポートする退院支援が重要視されている。病院勤務に移ったとしても、訪問看護の経験を生かして活躍する場面が見込まれる。

 「格好いいユニホームを見て憧れるのも動機の一つ」というのは、ウィル訪問看護ステーションの岩本大希代表。医療ドラマなどでよく見かけるユニホームに専門職としての魅力を感じる人も増えている。

 滋賀医科大学の「訪問看護師コース」1期生の吉田彬人さん(23)は「自分たちは在宅医療が重要になると感じてきた世代」と語る。訪問看護師の平均年齢は病院勤務の看護師より高い現状があるだけに、若手が増えることへの期待は高い。日本医師会の釜萢敏常任理事は「新卒は将来的に在宅医療の中核を担う人材としても重要」とみている。



(相馬真依)


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