「新生東芝」を繰り返す綱川社長に見えていない問題の本質 ~福島「いちえふ」と東芝会見。2つの現場を見て分かったこと~ – 大西 康之 – BLOGOS



 東芝が、主力事業である半導体売却を発表した「血のバレンタインデー」から1ヶ月。きょう、3月14日は東芝が前回延期した第三四半期決算(2016年度10月~12月)の発表をするはずだった。

 だが、数日前から「監査法人ともめているらしい」という報道が流れ、「再延期」がささやかれ始めた。案の定、午前10時22分、東芝広報から「本日の適時開示について」というメールが届く。「4月11日に再延期する」というのである。

 上場企業として極めて異例の措置である。もはや、上場企業の体を成していないと言ってもいい。

3月14日、会見を待つ報道陣 ©大西康之

日米両政府の壮絶な戦いが始まる

 前回の記者会見で、某全国紙の記者は、質問の最初に「迷惑してるんです。反省してください」と声を震わせたものだが、今回も発表を当て込んで予定を組んでいた大手メディアはさぞ、混乱したことであろう。質疑応答においても、東芝が東証二部降格か、上場廃止かといった質問が相次いだ。

 しかし、本質はそこではない。

 もはや問題は東芝という会社の枠を超えているのだ。米国の原子力子会社であるウエスチングハウス(以下、WH)がチャプターイレブン(米連邦破産法第11条)の適用を申請して事実上倒産した場合、巨額の負債を日米でどう負担するかという問題になる。

 3月10日、麻生太郎財務大臣は「チャプターイレブンがアメリカで(適用を申請するかどうか)決まらないと、こちら(東芝)も決算を出しにくいということになってんじゃないかな」と政府として東芝問題をきっちりウォッチしていることを明らかにした。

 WHが倒産すれば、同社が米国で建設中の4基の原発の先行きも怪しくなる。すでに3割以上の工事が進んでいるが、完成させるなら、さらなるコストオーバーラン(工事の遅れなどでコストが見積もりを超えること)を覚悟しなくてはならない。建設を止めるならこれまでのコストを誰が負担するのかという問題になる。

 いずれにせよ新たに発生する資金負担は数兆円単位になり、民間企業に負える規模ではない。議論は国のエネルギー政策にも及び、日米両政府の壮絶な「押し付け合い」が始まっている。東芝の生死などもはや小さな問題と言える。

「今後の東芝の姿について」

 決算発表はできないが、それでも東芝は「記者会見を開く」という。出席者は綱川智社長、平田政善専務、畠澤守常務、佐藤良二監査委員会委員長の4人である。

当日配られたペーパー ©大西康之

 午後1時31分、事前にメールで発表資料が送られてきた。タイトルを見て度肝を抜かれた。

「今後の東芝の姿について」

 中には公共システム、鉄道、国内原子力を含む電力などの社会インフラ事業を柱に力強く復活する東芝の姿が描かれている。決算発表すらできない会社が語る未来など、信用できるはずもない。しかしこんなお飾りのペーパーでもペーパーはペーパー。メディアによっては、このペーパーに流されて記事を作るだろう。大企業はこうしてメディアをコントロールする。 

 主力の半導体メモリー事業と海外原発事業を切り離したにもかかわらず、「新生東芝」の2019年度の売上高は2016年度から1兆3200億円減っただけの4兆2000億円、営業利益は2100億円の超優良企業である。

 監査法人が判をついていない数字を元に、バラ色の未来を描く。綱川社長が「新生東芝」と繰り返し、青写真を描く姿は「ウエスチングハウス(WH)の業績は順調」と言い続けた粉飾会社の体質がまるで変わっていないことを示しているのではないか。

 両翼をもぎ取られた東芝に、そんな明るい未来が本当に訪れるのか。

「新生東芝」の青写真 ©大西康之

死に体の会社に廃炉を任せられるのか

 東芝に降りかかっている問題は、東京だけを見ていては分からない。私は会見の4日前の3月10日、東京電力福島第一原発(いちえふ)を訪れた。

 帰宅困難地域に指定された双葉町、大熊町。一般の立ち入りは禁じられているが真ん中を貫く国道6号線は通行可能だ。車を降りると警備員が飛んでくるので、撮影は迅速に済ませなくてはならない。メディアも立ち入りを禁止されているのだ。

 そこには、東芝が背負った「業」に向き合う技術者と作業員がいる。

今も帰宅困難地域に指定されている「いちえふ」付近 ©大西康之

 国道6号線は周辺のいわき市などに住む作業員が乗る車と、建設資材を運ぶダンプで常態的に渋滞している。6000人いる作業員の中の一人は「行き帰りで往復3時間。これが辛い」と嘆く。

 東京では「粉飾決算の会社」として叩かれっぱなしの東芝だが、ここでは皮肉なことに「かけがえのない会社」になっている。「いちえふ」で事故を起こした4基の原子炉のうち、1号機を作ったのは米ゼネラル・エレクトリック(GE)、2号機はGEと東芝、3号機は東芝、4号機は日立製作所が作った。つまり東芝はどこよりも「いちえふ」を知る会社だ。

 通常のプラント事故では、機器に欠陥があった場合、メーカーは製造物責任を問われるが、原発プラントの場合、メーカーは免責される仕組みになっている。だが自分たちが作った原子炉がメルトダウンを起こし、周辺の街を「帰還困難区域」にしてしまった。真面目な東芝の技術者たちが責任を感じていないわけがない。

「ええ、東芝の人はみんな一生懸命ですよ。東電もプラントのことはわからないから、汚染水の処理や原子炉内部の調査で先頭に立っているのは東芝の人たちです」

 下請け会社の幹部はこう打ち明ける。

 2月に初めて2号機の原子炉格納容器に投入されたサソリ型ロボットを開発したのも東芝だったが、中の線量が高すぎてカメラが作動しなくなり、内部調査はあえなく失敗に終わった。

 経済産業省は「いちえふ」の廃炉作業にかかる時間とカネを「30年間で8兆円」と弾いたが、実際に作業をしている人々の実感は全く異なる。

「30年なんてとても無理。50年でもできるかどうか。とにかく今ある技術だけではなんともならない。お金をかけて画期的な技術を編み出す必要がある」

 絶望的な気持ちになった。

 その画期的な廃炉技術を生み出す役割を我々は、あの東芝に負わせているのだ。米国の原発事業で1兆円の減損損失を計上し、中国の原発やら米国のLNG事業やらの不発弾を抱え、上場廃止目前の東芝に、お願いするしかないのである。

東芝は当事者能力を失っている

 定刻の午後4時、綱川社長、平田専務、畠澤常務と佐藤監査委員会委員長が会見場に現れた。

会見場に現れた綱川社長 ©getty

 無表情に「今後の東芝」を説明する綱川社長。質疑応答に入ると、時折、笑みを浮かべる。すでに諦めの境地にあるようにも見える。

淡々と「東芝の未来」を語る綱川社長 ©大西康之

「東芝原発事業の良心」と呼ばれる畠澤常務は、根気よく絶望的なWHの状況を説明し続けた。「部外者」の佐藤監査委員会委員長は「今回のケースは特殊」と自分たちに落ち度がないことを繰り返し主張した。

「東芝原発事業の良心」畠澤常務(中央)©大西康之

 この会社はもう死に体である。当事者能力を失っている。彼らが語る「今後の東芝」という言葉が、会見場に虚しく響く。

 その死に体の会社に国の急所である「いちえふ」の処理を任せざるを得ないのが、日本の悲劇である。50年、いや100年かかるかもしれない廃炉をやり抜くには、東芝の力が必要だ。しかし肝心の東芝はとても50年存続できるとは思えない。



 繰り返すが、これは東芝という一企業の問題ではない。日本の、そして世界の大問題である。だが残念ながら、1時間半に及ぶ記者会見で、そうした認識は一度も聞かれなかった。


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