なぜ今、東大生は「スタートアップ」を学んでいるのか? – ダ・ヴィンチニュース



『逆説のスタートアップ思考』(馬田場隆明/中央公論新社)

 「成功の秘訣は直観的によいと思うものを捨てること」とアドバイスされたら素直に受け入れられるだろうか。あるいは「悪く見えるアイデアを選べ」とか「説明しにくいアイデアを選べ」などといわれたら。たんに偏屈なだけではないかと疑問に思うかもしれない。しかし、このような独特のルールが成り立つ世界がある。それがスタートアップだ。

 スタートアップとは、短期間で急速に成長する一時的な組織体のこと。FacebookやAirbnb、Instagramなどもスタートアップだ。これらはほんの数年であっというまに世の中に広まった。

 ちなみに、ベンチャーであっても短期間での急成長を目指さないのであれば、それはスタートアップではない。短期間で急成長するためは、一般的なビジネスのルールは通用しない。だからこそ逆説的な考え方が必要なのだ。本書『逆説のスタートアップ思考』(馬田場隆明/中央公論新社)は、そんなスタートアップにおける考え方をまとめたものである。

 本書によれば、日本では東大が最も多くの大学発スタートアップを輩出している。東大はスタートアップを支援する環境を長い時間をかけて充実させており、若者がスタートアップをしたいなら東大に進学することが最も近道である、といっても過言ではない。高学歴を生かした安泰な人生を選ぶのではなく、エリートだからこそ社会的課題に取り組むべき、という認識が日本の若い世代にひろがりつつあるようだ。そしてその手段として、スタートアップがある。

「スタートアップ」は普通のビジネスと何が違う?

 では、スタートアップにおける考え方は、普通のビジネスとどう違うのか。本書はアイデア、戦略、プロダクト、そして運についてまとめている。

 アイデアを採用する際、普通は最もよいと思えるものを選ぶだろう。スタートアップではそれは間違いだ。「そしてこれが最も重要なのですが、スタートアップとしての優れたアイデアは、一見そうには見えません」。急成長を狙うためには、誰の目から見てもよく思われるアイデアではいけない。ここがスタートアップのアイデアの反直観性であり、逆説的なポイントである。

 マーケットが合理的に動いていれば、急成長するチャンスはGoogleなどの嗅覚のある動きの素早い大企業によってすでに狩り尽くされているはずだ。しかし、いくつかのスタートアップは、そうした企業に先駆けて優れたアイデアにたどり着き、実行し、急成長を遂げている。なぜ彼らは先駆けることができたのか。

 その答えこそ、彼らのアイデアが、一見悪いように見える、不合理なアイデアだったからだ。たとえばAirbnbは、自分の家の一部を他人が泊まるために貸し出すサービスとして始まった。これは多くの人が「まさか」と思う、一見悪いように見えるアイデアだ。もし同じことをホテル業界の大企業の人が思いついたとしても、社内で了解を得て事業化するには至らなかったはずだ。

 資金や人材が極端に少ない状態で急成長を目論むスタートアップでは、まともな戦い方では立ち行かない。だから誰も手を付けていないアイデア、つまり「他人からは悪く見えるようなアイデア」や「まだ世間的なコンセンサスが取れていないアイデア」を選ぶ必要があるのだ。

 本書に書かれている考え方は、スタートアップだからこそのもので一般のビジネスには適用できない。だが、10年先がどうなっているかわからないこのご時世では、「10年後、本当に価値のある仕事は何か」「いまだ気づかれていない、価値ある仕事とは何か」といったスタートアップのアイデアを探すときの問いから参考にできるものが多くありそうである。



文=高橋輝実


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