マインドフルネスとは?定義と呼吸瞑想のやり方

心と脳を休ませる「マインドフルネス」

心と脳を休ませる「マインドフルネス」

心と脳を休ませる「マインドフルネス」

仕事をしていると、うまくいかないことも起こるものですが、そうしたときに「最悪だ!」とイライラし焦ったり、「これからどうしたらいいんだろう…」と不安になったりと、起きた出来事にいちいち振りまわされていませんか?

あるいは、隙間時間にスマホ等をチェックするのが癖で、なんだか脳が疲れている、ということはありませんか?

今回は、そんなあなたに実行してもらいたい、心穏やかに、「いま」という、この瞬間を充実させる方法「マインドフルネス」を紹介します。

マインドフルネスの定義

マインドフルネスとは、「意図的に、いまこの瞬間を判断することなく、ある特定の方法で注意を向けること」とされています(※1) 。

「マインドフルネス」は、1979年にマサチューセッツ大学医学部に創設された「ストレス低減クリニック」(後に「医療・ヘルスケア・社会のためのマインドフルネス・センター」に改名)で、ジョン・カバットジン博士が実践し、その効果が科学的に実証されたことから広がりを見せました。

現在、医療機関ではストレスや不安、うつ病・高血圧の症状の低減といった心身の病気の治療の一環として取り入れ、企業では感情とうまくつきあい、集中力や仕事の効率を高めるためのトレーニングとして取り入れる例が、国内外で増えています。

「マインドフルネス」には様々な方法がありますが、ここでは「呼吸瞑想」をお伝えします。

オフィスでも簡単にできる「呼吸瞑想」

呼吸に注意を集中する「呼吸瞑想」の習慣をつけると、自分の身体の普段の動きや反応の仕方等、内面の状態への理解が深まります。

呼吸は、焦っているときには浅く速くなる等、わかりやすく反応するので初心者にピッタリです! 

瞑想には時間や手順を決めて行うものと、そうした形にとらわれないものがあります。今回ご紹介するのは後者のほうで、時間も場所も問わず、通勤や仕事中の空き時間にサッとできることが魅力です。

では、実際にやってみましょう(※2)。

■1.身体の力を抜いて、椅子にゆったりとした姿勢で座る

椅子に触れているお尻や太ももの裏側の部分に意識を向け、左右横に揺れて、しっくりくる座りやすいところを探す。
両手は身体の横や腿の上など、楽なところに置く。

■2.軽く目を閉じ、身体のなかにある空気をゆっくり吐いて、気持ちのいい長さで鼻から吸う。吸って吐いて……と「心地の良い呼吸」を探す

「長く吐こう」「たくさん吸おう」とはせずに、ホッとする「心地の良い呼吸」を探すのがポイント。

■3.そのまま「心地の良い呼吸」を続けながら、鼻の先に意識を向け、鼻から出入りする空気の音を丁寧に聞く

普段、意識をしないで行っている呼吸を観察するときのポイントは、「丁寧な姿勢」。エアコンや足音等、外から様々な音が聞こえてきても、自分にしか聞こえない「小さな呼吸の音」に意識を向ける。

■4.「心地の良い呼吸」を続けながら、丁寧に温度を感じてみる

鼻から入る空気の温度、鼻から出ていく空気の温度……。
入る空気の温度と出ていく空気の温度は同じ? それとも違う?

■5.「心地の良い呼吸」を続けながら、丁寧に空気の流れを感じてみる

鼻から入った空気は、身体のどこを流れていく?
胸やお腹の膨らみ方に意識を向け、波のように動く身体の様子をしばらく感じてみる。

■6.「心地の良い呼吸」を続けながら、丁寧に呼吸のリズムを感じてみる

今の呼吸のリズムはゆっくり? それとも速い?
今の呼吸は深い? それとも浅い?

■7.「心地の良い呼吸」を続けながら、意識を鼻先に戻す

鼻の先を出入りする空気の音や温度を、また感じてみる。

■8.さいごに呼吸を3回ほどして、ゆっくり瞬きをしながら目をあける

瞑想を終えるときも、いきなり終えるのでなく、その準備をする。

一つひとつの行動を意識して行うことが大切なので、目もいきなり開かず、ゆっくりと光に慣れていこう。

マインドフルネス後の気分

マインドフルネス後の気分

いかがでしたか? 
今の身体の感じや呼吸のやりやすさ、気分はどうですか?

呼吸瞑想の途中でつい別のことを考えてしまうこともありますが、そのことに気づいたら、また、意識を呼吸や身体に向けましょう。

ここで大切になるのは、「意識をどこに向けているのかに気づく」、そしてまた「意識を “いま” “ここ” に向ける」ことです。


実は、このように別のことを考えていることに気づき、意識をコントロールできるようになると、ストレス原因と距離をとることができ、うまくストレスと付き合えるようになるのです。

呼吸瞑想によるマインドフルネスは、呼吸よって生じる感覚を感じ取ること。

そして、自分自身と向き合う時間を持ち続けていくことです。

なので、形にとらわれすぎず、まずは気軽にはじめてみましょう。

心穏やかに、「いま」という、この瞬間を充実させるために……。

いつも何気なく繰り返していることに、丁寧に、思いやりをもって向き合ってみませんか?

【引用文献】

※1.Kabat-Zinn J. Whenever you go, there you are: Mindfulness meditation in everyday life. New York: Hyperion. 1994.

※2.蝦名玲子(2016).生き抜く力の育て方~逆境を成長につなげるために.大修館書店.

本内容は、上記書籍執筆時、大阪大学大学院(兼、ケアリングヨーガ協会)の岩田昌美氏に考案いただいた、3分でできる家庭・学校用「呼吸瞑想」トレーニングの内容を、さらに簡略な表現へと加筆修正したものです。

なぜあの上司の話はコロコロ変わる?疲弊しない対処法

指示・意見がコロコロ変わる「困った上司」、どうやってうまく付き合う?

意思疎通できない上司を味方につける

意思疎通できない上司を味方につける

先日、「上司の指示・意見がコロコロ変わるんです。対応に疲れてしまって……」という方の悩み相談にのりました。

「わかりあえた」と思った次の瞬間には言うことが変わる。そんな一貫性のない上司がいたら、どう付き合っていけばいいのでしょうか?

やっちゃダメ!デメリットしかない「対立」と「我慢」

こうしたときにやりがちな、でも、決してやらないほうがいいことを2つ、ご紹介します。

1つめは「上司と対立する」こと。

「このあいだは、こうしろと仰ったじゃないですか! 指示をコロコロ変えるのはやめてください!」

そう言いたくなる気持ちはわかりますが、感情をぶつけ、対立するのは、あなたにとってデメリットしかありません。

怒りの感情が間に入ると、話し合いがうまく進まないだけでなく、人間関係が悪化し、その後の仕事が余計にやりづらくなります。

上司との対立

上司との対立

2つめは「我慢する」こと。

「私が耐えさえすれば、丸く収まる」と考え、言いたいことを言わずに我慢する、という人も多くいます。

この方法では、最初のうちはうまくいっているように見えますが、結局、我慢しきれなくなるまで不満が溜まり、「不満や怒りの爆発」や「ストレスが原因の病気の発症」という形で突然の悲劇に見舞われることになりかねません。

では、どうしたらいいのでしょうか?

ポイントは、人間関係を悪化させずに、自分の意見を伝えることです。さらに、困った上司を味方にすらしてしまう、コミュニケーションの秘訣があるので、4つのコツにまとめて、お伝えしましょう。

コツ1)「わかりました」+内容復唱・要約、最後に確認

まずは、「わかりました」と上司の指示や意見を理解したことを伝えたうえで、会話の内容を復唱・要約し、最後に確認することを習慣にしましょう。

復唱、要約、確認

復唱、要約、確認を習慣に

「わかりました。新製品の機能面を強調した資料を28日10時までにつくる、ということですね」

このように、「わかりました」と最初に言うことが、上司を味方につけるコツです。

私はアメリカで暮らしていたことがありますが、異なる文化・言語的背景を持つ人たちが一緒に暮らしていると、理解し合えないことが多々あります。

そうしたなか、かの国では、「わかりました(I understand what you are saying.=「あなたの言うことを理解しました」というニュアンス)」と意思疎通できたことをまず伝え、その上でその意見に同意するか否かを伝えるという工夫をしています。

最初に「わかりました」と言うことで、「ああ、こちらの言ったことがきちんと伝わった」と相手にまずホッとしてもらうことができるのです。

では、上司の指示や意見に同意できない場合は、この後にどう続けたらいいのでしょうか?

コツ2)「あなた」を主語にしない質問をする

次のコツは、「あなた」を主語にしない質問をすることです。

「ただ、最初は機能面を強調した資料をつくるとのことで、次は価格面を前面に出すように変えました。さらに今回また機能面に戻すことになったわけですが、今回の変更の一番の理由は何なのか、教えていただけないでしょうか?」

このように、「今回の変更の一番の理由」を主語にすることで、客観的な質問ができるのです。

一方、「なぜ、あなたは変更したのですか?」という「あなた」を主語にした質問をすると、相手は「質問されている」というよりも「詰問されている(=攻撃されている)」と感じます。

すると「攻撃されているのだからディフェンスしなければ!」という思考が生まれ、対立関係を生み出しやすくなるのです。

対立してしまうと、当然ながら「変更に至った理由」を冷静に教えてもらうことは難しくなります。

コツ3)「自分の意見+役立つ情報」を伝えた上で、相手の意見を聞く

さて、「今回の変更の一番の理由」を主語にした先ほどの質問で理由がわかったら、ここで一旦、上司の意見を受け止め、自分の席に戻りましょう。

一度受け止めることによって上司の面子を立て、自分も新たな視点から熟考することでさらに良いものを生み出せる可能性が高まります。

ただ、再考してもなお上司の指示に納得できないようであれば、この段階でもう一度話し合いの機会を設け、あなたの意見を伝えた上で、上司の意見を聞きましょう。

「課長のご指示通り、機能面を前面に出しましたが、市場について再度調べてみると、新しいデータが見つかりました。このデータを見る限り、やはり価格についても強調したほうがいいと思い、少し目立つようにしてみました。ご意見をお聞かせください」

このように、意見を伝えるとき、上司にとっても新たな役立つ情報を加味すれば、あなたの意見がより受け入れられやすくなります。

コツ4)指示の出し方が改善されたら、感謝を伝える

こうしたコミュニケーションを日頃からとるようにし、少しでも指示の出し方が改善されたら、感謝の気持ちを伝えましょう。

上司との信頼関係

上司に感謝の気持ちを伝える

実は「指示や意見がコロコロ変わるタイプの上司」は、周りの目を気にしていることが少なくありません。

こうした人は、追いつめられていないときは、目配りができたり、慎重で大きな失敗をしにくかったりする長所をもつことが多いものです。

そうした上司の良い面に気づき、人として上司のことが好きになれれば、あなたの内面から優しさが溢れるようになるはず。

あなたが優しい態度で接するようになると、上司も「この部下は、自分のことをわかってくれている」と感じ、あなたを信頼するようになります。

互いが優しさを出し合い、信頼し合える関係になれたら……。上司はあなたにとっての「ストレス原因」ではなく「助けてくれる味方」になることでしょう。

【参考文献】

蝦名玲子(2012).困難を乗り越える力~はじめてのSOC.PHP研究所.

レジリエンスの新概念「SOC」、3つ感覚から成る逆境力

レジリエンスの高い人は、逆境を成長につなげられる

レジリエンスの高い人は逆境を成長につなげられる

レジリエンスの高い人は逆境を成長につなげられる

仕事をしていると避けられないのが、ストレス。

苦手な人と一緒に仕事をしたり、責任の重い仕事で成果が求められたり、同期に差をつけられたり、時には理不尽なことも押しつけられたり……。

そうしたストレスをもたらす困難な出来事をうまく乗り越えられる人と、すぐに心が折れてしまう人がいます。

こうした違いは、なぜあるのでしょうか?

実は、その違いは、「レジリエンス」の高さにあります。

レジリエンスとは……、

  • 挑戦的あるいは脅威的な状況にもかかわらず、うまく適応するプロセスや能力、結果のこと(※1)
  • 重大な逆境という文脈のなかで、良好な適応をもたらすダイナミックなプロセス(※2)

をはじめ、複数の定義があります。

「レジリエンス」という言葉がメンタルヘルス分野で使われるようになったのは、1940年頃から。

1970年代に入り、論文としてまとめられたことを契機に多くの研究が始まり、今では、レジリエントな(レジリエンスが高い)人は、逆境にさらされてもうまく適応できることが知られています。

心の折れやすさを握るカギ=SOC

ただレジリエンスの定義は複数あり、また広く、多様に用いられているため、ここでは、もう少し焦点を絞った形で解説した、まさにレジリエンスの新概念ともいえる「SOC(Sense of Coherence):首尾一貫感覚」をご紹介します。

SOCは、1970年代に健康社会学者アーロン・アントノフスキー博士が提唱した概念です。博士は、第二次世界大戦のときナチスドイツの強制収容所に入れられた人たちのその後の心身の健康状態を研究しました。

極限のストレスを経験しても、その後の人生で心身の健康を守れているばかりか、その経験を人間としての成長の糧にさえしている人たちがいることに気づき、その理由を「SOC」の高さにあると解説したのです。

実は私も、旧ユーゴ紛争生存者の研究を実施したことがあります(※3)。

研究に協力してくれた対象者は、1990年代、思春期にユーゴスラビア社会主義連邦共和国の崩壊に伴う内戦を体験し、その後、国の解体・独立をはじめとする混乱社会を生きた女性たちです。

このため、対象者全員が多感な時期に過酷な体験をしたわけですが、「戦争から約10年後、どんな生活を送っているか」を調べた結果、イキイキと充実した生活を送っている人もいれば、戦後の平和な社会にうまく適応できていない人もいました。

「なぜこうした違いがあるのか」の答えを探るため、私はクロアチアの国境にある激戦地域で数年に渡って研究を行い、その結果、「SOCが高い人は、戦争ストレスをうまく対処し、まるで全ての経験が人生に深みをもたらすもののように、充実した生活を送っている」ことを確認したのです。

ドナウ川を挟んだクロアチアの国境のまち、ブコバル

ドナウ川を挟んだクロアチアの国境のまち、ブコバル

そう! この「SOC」という困難を乗り越える力を高めることができたら、今はつらすぎて受けとめられないような出来事が起きても、それを人生に深みをもたらす経験にさえすることができるのです。 

では、SOCは、何からできているのでしょうか?

困難を乗り越える力SOCは、3つの感覚からできている

困難を乗り越える力SOCは、「わかる感」「できる感」「やるぞ感」という3つの感覚からできています。

これらの言葉は、皆様にストンと理解していただくために私がつくった言葉(蝦名玲子, 2010, 2012, 2016) で、正式名称はそれぞれ「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」といいます。

これら3つの感覚が高いと、困難な出来事が起きても、うまく対処することができるのです。

では、具体的に「この3つの感覚が高い」とは、どんな状態なのでしょうか?

ここでは、「同期に差をつけられた」という職場でよくある出来事を例にとって、解説していきましょう。

大抜擢された同期

大抜擢された同期

感覚1.わかる感

「わかる感」とは、自分の置かれている状況を理解できている、または今後の状況がある程度予測できるという感覚のことです。

この感覚が低いと、自分の置かれている状況を理解できないので、「どうして自分は同期のように活躍できないんだ?」と混乱しやすくなります。また「同期との差は開くいっぽうだ……、これからどうしたらいいんだ」と見通しのつかない将来に対して、途方に暮れやすくなります。

しかし、「わかる感」が高いと、「同期はこんな工夫をしているから、効率よく仕事を進められている」等と現状を把握し、「自分もムダを減らすように、同期の工夫を見習ってみよう」と今後の見通しを立てられると感じられるため、動じにくくなるのです。

感覚2.できる感

「できる感」とは、自分の中や外にある資源を集めて、困難な出来事に直面しても、「自分ならなんとか切り抜けられる」「やっていける」という感覚のことです。

たとえば、過去に「うまく這い上がった経験」がある人は、同期に抜かれても、「まぁ、人生、抜かれることもあるさ。あのときも返り咲けたし、今回もまたきっとなんとかなる」と考えやすいですよね? こうした過去の成功体験等は、自分の中にある資源です。

また、自分の外にも資源はあります。それは、自分を助けてくれる存在です。役立つ情報をくれる恩師や上司、つらい気持ちを癒してくれる家族や友人等は皆、あなたを助けてくれる存在といえます。

こうした存在に気づけると、「自分には助けてくれる存在がいるから、きっとなんとかなる」と感じやすくなります。

つまり「できる感」が高いと、「自分は一人じゃないし、きっとなんとかなる」と感じられ、追いつめられにくくなるのです。

感覚3.やるぞ感

「やるぞ感」とは、ストレスをもたらす出来事を「これは自分にとって、挑戦だ」「これを乗り越えることは人生に必要なことだ」と信じ、日々の営みへのやりがいや生きる意味を見出せる感覚のことです。

同期に差をつけられたとき、この感覚が低いと、「これだけつらいのに、なぜがんばらないといけないんだ」「もうどうでもいい」と感じやすくなります。

しかし、この感覚が高いと、「神様は乗り越えられない試練を与えるはずがない」等となんらかの意味を見出せるため、諦めてしまいにくくなるのです。

折れない心は、環境のなかで、何歳からでもつくれる!

さいごに、私がSOCの概念が大好きな理由を。

それは、この力が環境のなかでつくられ、いくつになっても日々の生活のなかで学ぶことができる、という点です。

そう。遺伝や生まれつきのものではないのです! 

折れない心は、環境のなかでつくられ、何歳からでも高めていける!

折れない心は、環境のなかでつくられ、何歳からでも高めていける!

つらいことがあったときに、「そのストレスにうまく対処できた」という経験によって、学び、高めていくことができるのです。

なんだか希望が持てると思いませんか?

だから……、もし、これから生きていくなかで、つらいことがあったら、ぜひこれら3つの感覚を高めるように意識してください。

人生は何が起きたかではなく、「起きたことにどう対処したか」で変わるのです!

※1.Mastern A, Best K, Garmezy N. Resilience and development: contributions from the study of children who overcome adversity. Dev Psychopathol. 1990; 2: 425-444.

※2.Luthar SS, Cicchetti D, Becker B. The construct of resilience: a critical evaluation and guildlines for future work. Child Dev. 2000; 71(3): 543-562.

※3.Ebina R, Yamazaki Y. Sense of coherence and coping in adolescents directly affected by the 1991-5 war in Croatia. Glob Health Promot. 2008; 15(4): 5-10.

【参考文献】

蝦名玲子(2016).生き抜く力の育て方~逆境を成長につなげるために.大修館書店

蝦名玲子(2012).ストレス対処力SOCの専門家が教える~折れない心をつくる3つの方法.大和出版

蝦名玲子(2012).困難を乗り越える力~はじめてのSOC.PHP研究所

蝦名玲子(2010).元気な職場をつくるコミュニケーション.法研

アントノフスキー A(著), 山崎喜比古・吉井清子(監訳)(2001).健康の謎を解く~ストレス対処と健康保持のメカニズム.有信堂高文社

「叱られたことない」と涙ぐむ、部下後輩への指導法

部下や後輩を持つようになると、避けられないのが「注意をする」場面。

しかし最近は、注意をしたらその後避けられたり、涙ぐまれたり、逆ギレされたり……、といった過敏な反応が返ってきて、注意することにストレスを感じる方が少なくないようです。

とはいえ、部下がミスをしても「注意をするのは苦手だから」と放っておけば、ミスが延々と繰り返されてしまいます。職場に悪影響を与えますし、部下本人にとってもミスを繰り返す自分に自信が持てなくなるなど、良いことはありません。

そこでここではまず、注意をした上司・先輩を避けたり、逆ギレしたりする若手社員の心理や社会的背景を解説し、それからそうした拒絶過敏な部下への注意の仕方のポイントをお伝えします。

拒絶過敏の原因は「存在を否定された」と感じることにある

私たちは、コミュニケーションを重視する社会に生きています。

「いかにわかりやすく伝え、共感してもらうか」

「その結果、いかに人に “いいね!” と承認してもらうか」

といったことが、仕事でも、プライベートでも、重視されています。

少し前であれば、コミュニケーションが上手にとれない人に対しても、

「あの人は不器用な人だから、仕方ないよね。あまりコミュニケーションをとらなくてもいい仕事を任せよう」

などと言って受け入れていました。

しかし近年は、「コミュ障」「KY」「ゆとり」といった言葉が生まれ、一般の人でも「発達障害」「アスペ(アスペルガー症候群)」等という言葉でレッテルを貼り、問題視するようになりました。

そうした社会的風潮のなかで、コミュニケーションがうまくとれないことに悩み

「自分がコミュニケーションをうまくとれないのは病気のためだ」

と考えて、医療機関を受診する人が増えています。

実際、アスペルガー症候群の診断を下せる専門医のいる病院は少ないにも関わらず、この病気の患者が増えているといいます(※1)。

また、地域の絆が薄れた核家族社会で育った若手社員には、他人に注意されたり叱られたりした経験が少ない人もいます。

コミュニケーションをうまくとり、承認されることに価値が置かれる現在、他人に叱られた経験が少ない人が注意をされると、自分の存在そのものが否定されたように感じられ、過敏に反応してしまうのです。

注意をした上司を避ける、涙ぐむ、逆ギレする……というのは、すべて自分の存在を否定されたように感じて、過敏に反応しているサインなのです。

注意をされて傷ついた部下

注意をされた… 最悪だ!

こうした背景を踏まえ、部下・後輩に対し、どう注意をすれば過敏に反応させることなく、同じミスを繰り返させない指導ができるのでしょうか? 

過敏に反応させない注意法=「3つの質問」

■1.相手の言い分に耳を傾けるための質問

まずは、何があったのか、時系列で説明してもらいましょう。

このとき、いきなり注意をするのではなく、「何があったのか説明してくれる?」と相手の言い分に耳を傾けることが最初のポイントです。

先に部下の話を聞くことで、「あなたは話を聞いてもらえるだけの価値のある人なのですよ」という暗黙のメッセージを伝え、存在を肯定することにつながるのです。

■2.置かれている状況を理解させるための質問

今回のミスを生んだ一番の原因は、何だと思う?」と質問しましょう。

このとき、「どうして(あなたは)ミスをしたの?」というような「あなたは」を主語にした質問は部下を責め、問い詰めるニュアンスがあるため、使わないように気をつけましょう。

「一番の原因は」を主語にした質問にすることで、部下を責めることなく、客観的に現状を考えさせることができます。

もし、部下の回答が的を射ていない場合には、この時点で、あなたの見解を伝えましょう。

■3.今後の状況を予測させるための質問

さいごに、「同じミスを繰り返さないためには、何をしたらいいと思う?」と質問しましょう。この質問の答えを考えさせることで、今後、同じミスを繰り返させずに済みます

モチベーションを高める指導

モチベーションを高める指導

ミスを決して見逃さない姿勢を持ちながらも、相手の存在を肯定し、ミスの再発防止に向けて前向きに考えさせる。


これが、注意すると拒絶されたように感じ、過敏に反応してしまう部下・後輩を指導するためのポイントなのです。

※1.斎藤環『今どきの若者とのコミュニケーションのとり方』(中央労働災害防止協会実務向上研修、2014年)

参考:蝦名玲子『困難を乗り越える力:はじめてのSOC』(PHP新書、2012年)